β-コングリシニンは中性脂肪の低減に効果
大豆たん白健康情報センターでは、7月24日、第3回メディアワークショップを開催しました。今回は京都大学名誉教授(元京都大学食糧科学研究所所長)鬼頭誠先生に「ある種の『大豆タンパク質』は中性脂肪を排除する」と題して講演していただきました。

鬼頭 誠(きとう まこと)
1950年同大学院農学研究科農芸化学専攻修士課程修了
1950年京都大学食糧科学研究所助手
1967年米国ペンシルベニア大学医学部研究員(1968年帰任)
1969年京都大学食糧科学研究所講師
1972年同助教授1976年同教授
1988年同所長・京都大学評議員を併任(1997年併任終了)
1998年定年退官、京都大学名誉教授
これまで大豆タンパク食品がコレステロールだけでなく、中性脂肪に対しても低減効果があるのではと考えられてきましたが、講演では大豆タンパク質を構成するβ-コングリシニンの働きによるという最新の研究結果が示されました。動物実験だけでなくヒトによる臨床試験でも血中の中性脂肪低下、さらには体脂肪率の低減効果も確かめられたことが明らかにされました。β-コングリシニンについてはさまざまな研究が続けられており、今後生活習慣病予防やダイエットへの応用などが期待されています。
以下が鬼頭先生の講演の要旨です。
グリシニンβ-コングリシニン
大豆タンパク質の生理機能として代表的なものに、コレステロールの低下や更年期障害の緩和、血中中性脂肪の低下などの作用があげられます。このうち、コレステロールの低下や更年期障害の緩和には大豆タンパク質に含まれるイソフラボンも大きく関与していることが明らかになっていますが、中性脂肪の低減にはイソフラボンは関係していません。
これまで、中性脂肪の低減はグリシニンの作用とされてきました。しかし研究の結果、もうひとつの主要構成タンパク質であるβ-コングリシニンこそが中性脂肪をより効果的に低減させるということが分かりました。
β-コングリシニンが中性脂肪を排除~動物を使った実験
まず、肥満・糖尿マウスと通常のマウスを使って、β-コングリシニン、グリシニンとカゼイン(乳タンパク質)を材料に血中中性脂肪低減の比較実験が行われました。その結果、通常の食事に加えてβ-コングリシニンを与えたマウスのグループは、肥満・糖尿マウス、通常マウスいずれも他のグループに比べて糞中の中性脂肪(トリグリセリド)量が最も多く、また血中の中性脂肪濃度は最も低いという結果が出ました。これは、β-コングリシニンが「食べた油脂を完全には消化せず、一部を未消化で体外へ排出」し、かつ「肝臓内の中性脂肪を血中へと運び出す機能を低下させる」作用をもつことを示しています。
一方、グリシニンを与えたマウスの血中の中性脂肪量は、カゼインを与えた場合とほぼ変わらず、大豆タンパク質のもつ中性脂肪低減作用はβ-コングリシニンによることが明らかになりました。ラットやハムスターでも同様の実験結果が得られています。現在、β-コングリシニンがどのようなメカニズムで作用しているのかの解明が進められていますが、β-コングリシニンは脂質の代謝に関する遺伝子に作用し、中性脂肪軽減に効果を発揮することは実験結果からはっきりしています。
図1 肥満・糖尿マウスと正常マウスにおける糞中トリグリセリド量の比較
人間への効果は?
図1 肥満・糖尿マウスと正常マウスにおける糞中トリグリセリド量の比較
ついでヒトでの実験が行われました。男女13名に一日当たりβ-コングリシニン5gを含むクッキー状のスナックを2週間摂取してもらい、血中中性脂肪を測定しました。摂取カロリーは1日2000kcal以下に抑え、スナックは夕食時に摂取してもらいました。その結果、13名中9名の血中中性脂肪値が低下するという傾向がみられました。また、コレステロールも低下しました。
同様に一日当たりβ-コングリシニン5gを女性25名に4週間摂取してもらう実験も行いました。実験では摂取カロリーに制限は設けず、毎食時前(10名は朝晩の食事前)にβ-コングリシニンを摂取してもらい、同時間帯に体脂肪を測定しました。その結果、25名中15名の体脂肪率が下がり、うち8名には1%以上の体脂肪率低下効果がありました。
これらの実験結果から、ヒトにおいても少量(5g)のβ-コングリシニンを長期間摂取することによって、血中中性脂肪の低減、さらには体脂肪率の低下を期待できることがわかりました。
豆腐・豆乳では約1kgの接種
β-コングリシニン5gを摂取するには、大豆食品をどのくらい食べればよいのかについては、分離大豆タンパク質は25-33g、大豆やきなこは90-100g、豆腐・豆乳では800-1000g、すなわち約1リットルになります。どれでも効果は変わりませんのでお好きなものを食べればいいと思いますが、少量で摂取できればより機能的といえます。
近年、大豆は現代病を「癒す」食品として再び注目されています。β-コングリシニンについては、京都大学をはじめ、医療機関や日米等の企業の研究所において、その構造や機能についての研究が進められ、ここ数年のうちに次々と研究成果が発表されていく見通しです。
質疑応答
講演のあと、活発な質疑応答がありました。
【Q】β-コングリシニンの医薬品への転換は?
β-コングリシニンは食品タンパク質です。自然なものから摂取できて効果があるのですから、わざわざ時間もコストもかかり、処方箋の必要な医薬品にする必要はないと思います。
【Q】大豆タンパク質中の、β-コングリシニン以外のタンパク質の生理効果は?
グリシニンはコレステロールを低下させる作用があると言われてきましたが、さらに研究が必要です。それ以外の大豆タンパク質を構成する部分には、とくに生理機能は今のところ発見されていません。
【Q】ヒトでの試験で、体脂肪率1%減という結果のもつ意味をどう考えるべきか?
1%の体脂肪率低下と聞くとたいした数字ではないようですが、これは4週間の実験データです。つまり、4週間で1%減少するということは、このまま続ければより大きな効果が得られるという期待がもてると言えます。
【Q】β-コングリシニンとグリシニンとの違いは?
タンパク質の組成からいえば、β-コングリシニンは糖鎖を10本もっていますが、グリシニンはもっていません。現在京大のグループが研究中でまだはっきりしたことはいえませんが、おそらくβ-コングリシニンの機能がこの糖鎖に由来する可能性は否定できません。
【Q】大豆タンパク質からβ-コングリシニンは簡単に抽出できるのか?
すでにβ-コングリシニンだけを抽出する技術は確立していて、大量生産する仕組みも整っていると聞いています。β-コングリシニンを使った商品も近く出てくるのかもしれません。
【Q】β-コングリシニンの風味は?
β-コングリシニンに限らず、良質のタンパク質はほぼ無味無臭です。
【Q】特定保健用食品の機能成分としてβ-コングリシニンは入っていないのか?
現在、特定保健用食品の申請はされておりません。今回の研究が世界ではじめて明らかにされたデータですので、今後さらなる研究を重ねた上で対応がなされるものと思います。
海外インフォメーション
米国において大豆に関する情報を提供しているソヤテック社のピーター・ゴルビッツ社長(写真)が、7月中旬に東京で行われた米国大豆協会主催の第5回ASA食品大豆セミナーに合わせて来日、本センターとのインタビューに応じた。
『社長は以前、豆腐屋を開いていたくらい豆腐好きとうかがっているが、一般のアメリカ人も大豆について関心が高いのか』
ゴルビッツ:私は週3回とうふ、週1回肉代替品を食べ、エナジーバーを週2〜3回、豆乳アイスクリームを週数回、そして豆乳ヨーグルトは毎日だ。米国大豆協会の調査によると、米国では約70%の人が大豆には健康価値があると考え、28%の人が大豆を定期的に食べている。ちょっと試してみたという人を入れれば、その数字は30%以上になるかもしれない。だが、実際1〜2週間に1回は大豆食品を摂っている人は3〜5%前後だろう。
アメリカの大豆食品事情〜味の方向性示したシルクミルク〜
『大豆たん白のもつ生理機能のどれに最も高い関心を持っているか』
ゴルビッツ:心臓病とがんについての機能。心臓病は米国人の死因No.1だし、大豆には心臓病予防に役立つ効能があることも知られている。がんに対する関心は高い。心臓病が、バイパス手術や、ペースメーカー等の対処法があるのに比べると、がんは進行している間苦痛が伴うし、心臓病ほど外科的処置は有効ではない。私は特に前立腺がんに関する健康価値の証明に期待している。現在、女性に関係の深い健康価値が強調されすぎているが、新たな健康価値の発見により、男性にももっと関心を持ってもらいたい。
『米国では、チルド豆乳が伸び、レトルト豆乳は停滞しているが』
ゴルビッツ:1つは味の問題だ。「シルクミルク」のようなチルド豆乳は、普通のミルクの味ではないものの、低脂肪牛乳に近い味に調整されていた。プロテインはおそらく2〜3%。つまり味や色の面ではミルク代替品として作られていた。レトルト豆乳と比べて薄味で、口ざわりがよく、より飲みやすい。
『価格の問題はないのか』
ゴルビッツ:チルド豆乳は、保存料を使用しないため製造コストが下がり、たとえば「シルクミルク」は従来のレトルト豆乳と比べて30%安い。よく飲む人には大きなインパクトだ。また、スーパーなどでは、レトルト豆乳は健康食品売り場に置かれていることが多かった。チルド豆乳の方は、牛乳と同じ形の容器で、牛乳と並んだ棚で販売された。牛乳は好きだがコレステロールも気になるという人でも気軽に試してみることができ、飲み続けることに結びついたのだ。〈以下次号〉



