大豆たん白は、メタボリックシンドロームと密接に関係する善玉物質「アディポネクチン」の上昇に効果あり
大豆たん白健康情報センター 第6回メディアワークショップ開催
フジプロテインテクノロジー株式会社は、不二製油株式会社、プロテインテクノロジーズインターナショナル(PTI)、財団法人不二たん白質研究振興財団の協力をうけ、本年5月「大豆たん白健康情報センター」を設立しました。5月9日、同センター主催のもとジャーナリストを対象とした設立記念メディアワークショップ「肥満・生活習慣病と大豆たん白」が東京で開催され、PTIのA.B.クラーク社長、不二製油(株)新素材研究所の高松清治医学博士、タニタ体重科学研究所所長の池田義雄医学博士が大豆たん白のさまざまな側面について講演しました。
急がれる動脈硬化性疾患対策
何百万年の歴史をもつ人類の生活環境は、わずか50年という間に想像を絶するスピードとスケールで大きく変化しました。現代の私たちは、祖先のように狩猟に出て、毎日の食物を獲りに行く必要はありません。食べ物は手に届くところにあり、動かずして用が足せるようになりました。消費するはずだったエネルギーが余って脂肪として蓄積され、その結果、これまで考えられなかったようなさまざまな健康上の問題に見舞われてしまうこととなったのです。
世界保健機構(WHO)が発表した2001年の世界の死因統計によると、動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞)による死亡率は全体の30パーセントを占めるまでになりました(図1)
図1 2001年全世界死亡者数56,502,000人の死因統計
この結果を受け、世界的に動脈硬化予防対策への動きが広がっています。日本でも、動脈硬化性疾患の発症数は増加の一途をたどっており、労働省(現厚生労働省)は1993年から研究や対策に乗り出しています。
「メタボリックシンドローム」とは
私たちは、皮下脂肪とは別の脂肪組織として、腸の周りに存在する「内臓脂肪」の重要性を発見しました。肥満は、ウェストサイズの大きい「上半身肥満(りんご型肥満)」と、ヒップ(臀部)サイズの大きい「下半身肥満(西洋梨型肥満)」に分けられますが、上半身肥満こそが内臓脂肪の蓄積された肥満状態なのです。
動脈硬化につながる複数のリスクが一人の人に重なっている病態を指す「マルティプルリスクファクター症候群」の概念は1980年代後半に誕生し、「シンドロームX」、「死の四重奏」、私たちが発表した「内臓脂肪症候群」など複数の概念が存在しました(表1)。2005年にこうした概念が世界的に統一され、「メタボリックシンドローム」と称されるようになりました。
「メタボリックシンドローム」の鍵となるのは、過栄養と運動不足による内臓脂肪の蓄積が上流因子として存在することです。内臓脂肪を減らすことによって、下流因子の糖尿病、高脂血症、高血圧を改善することができ、さらに、心筋梗塞、脳梗塞の発症を抑えることができるのです。
表1メタボリックシンドローム命名の由来
日本人の肥満
日本人は、成人男性はほぼどの年代でも、女性は更年期以降、肥満になる人の数が増加しています。そのため、日本人のメタボリックシンドロームは、成人男性は全年代、女性は更年期からの動脈硬化性疾患への予防対策が必要になります。欧米と比較すると、日本人には高度な肥満は少ないのですが、肥満に関連して起こる糖尿病や高血圧などが欧米並みに増加しています。つまり、日本人は、肥満に対する代謝や耐性が弱いと推察されます。日本人に多く見られる疾患のほとんどは、脂肪細胞の機能異常、つまり、内臓脂肪の蓄積がその背景にあります。
メタボリックシンドロームにより診療が変わる
この診断基準を適用することで、たとえば糖尿病で診療を受けに来た場合でも、メタボリックシンドロームと診断された場合、患者さんは血糖のみを調整するのではなく、心筋梗塞、脳梗塞を防ぐために、内臓脂肪を減らすよう指導されます。これまでは個々の疾患に対し、複数の薬が処方されていましたが、内臓脂肪を減らすことで薬を減らせるかもしれません。
表2 メタボリックシンドロームの診断基準
皮下脂肪はなかなか減らすことができませんが、内臓脂肪はダイエットと運動をすれば容易に減らすことができます。運動をすることで、内臓脂肪を減らすだけでなく、善玉物質「アディポネクチン」(詳細は後述)も上昇させることができます。運動不足になると、筋肉へ向かうべきエネルギーは内臓脂肪に供給され、結果として内臓脂肪が増加してしまいます。
日本では、BMI値、コレステロール値、空腹時血糖値、血圧値において高数値が重なっている状態を死の四重奏と診断し、それに対する予防医学制度が2001年よりスタートしています。メタボリックシンドロームの予防医学が労災保険の適用として認められているということでは世界にも誇るべきことです。
アディポネクチンの発見
これまで脂肪細胞は、エネルギーを中性脂肪として貯金のように蓄積し必要に応じて使用する機能だけだと思われてきました。しかし、最近の研究により、脂肪細胞は多彩な生理活性物質「アディポサイトカイン」を分泌する内分泌細胞であることが分かってきました。
アディポサイトカインには、悪玉と善玉があります。悪玉には、血栓溶解を阻害する作用をもつ「PAI-1」や、糖尿病の発症に関わるインスリン抵抗性を引き起こす「TNF-α」などがあります。これらの物質は、内臓脂肪が蓄積された状態になると増加し、血栓や糖尿病などの原因となります。
一方、善玉アディポサイトカインとして発見されたのが「アディポネクチン」です。アディポネクチンは、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化、がんを予防するほか、血中濃度が低いと、血糖値の上昇を抑えるインスリンの働きが悪くなることも分かってきました。アディポネクチンは全身の脂肪細胞から分泌されていますが、内臓脂肪が蓄積されてしまうと、分泌が減少してしまいます。
アディポネクチンのメカニズムを分かりやすく例えるならば、脂肪細胞内で作られ血液中に流れる体の消防隊です。血管内で火事があった場合に火を消す役割を担っています。しかし、内臓脂肪が蓄積されると、消防隊の数が欠乏し、体のいろいろな箇所で起こっている小火(ぼや)を消すことができなくなり、大火事になってしまうのです。
大豆たん白はアディポネクチンを上昇させる
米、大豆、野菜を中心とする日本の食生活は、メタボリックシンドロームを予防すると考えられています。大豆たん白の減量効果を検証する研究、大豆たん白とアディポネクチンの産生に関する研究が行われており、研究結果が世界中から注目されています。2003年の私の研究では、大豆たん白食とカゼイン(乳たん白の一種)食を与えた肥満マウスの比較において、大豆たん白食群のアディポネクチンは有意に産生したことが分かりました(図2)。この結果から、大豆たん白は、アディポネクチンを上げる作用があると推察され、メタボリックシンドロームの予防因子として重要であると考えられます。
図2 大豆たんぱくはアディポネクチンを上げる
また、肥満者での大豆たん白食の減量効果についての山本ら(1990年)の研究では、大豆たん白食を食べたグループの方が乳たん白食を食べたグループに対して、体重減少効果が高かったという結果も出ています(図3)。
図3 肥満者での大豆たん白食の減量効果
今後のさらなる研究が期待される脂肪細胞
これまで、脂肪をためておくところと考えられてきた脂肪細胞の実態が明らかになってきたのはつい最近のことです。脂肪細胞からは、さまざまなアディポサイトカインが分泌されており、全身をコントロールしています。脂肪細胞の研究はまだほんの入り口に達したばかりのところにあり、今後さらに研究が進めばさらに多くのことが解き明かされていくことでしょう。
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松澤佑次先生略歴 財団法人住友病院院長。大阪大学名誉教授。1966年3月大阪大学医学部卒業。1987年に、内臓脂肪を前提としたメタボリックシンドローム概念の前身となる「内臓脂肪症候群」を提唱。2005年4月、委員長を務めるメタボリックシンドローム診断基準検討委員会が日本におけるメタボリックシンドローム評価基準を発表。 |




