メタボリックシンドロームに効果あり
大豆たん白健康情報センターでは2006年11月7日、第7回メディア・ワークショップを開催いたしました。今回は不二製油(株)・フードサイエンス研究所の廣塚元彦所長が「大豆β-コングリシニンによるメタボリックシンドローム予防・改善効果」と題して研究報告を行い、これを受けて国立健康・栄養研究所理事長の渡邊昌先生より、研究報告についての解説、コメントをいただきました。
社会問題化しつつあるメタボリックシンドロームとは
近年、肥満が大きな社会問題になっています。なかでも昨今、特に問題視されているのが、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)です。メタボリックシンドロームになると、動脈硬化を経て、心筋梗塞や脳梗塞など重篤な血管の病気にかかりやすくなります。国もこれを看過できない問題と受け止め、平成18年度中に12万人を対象とした大規模な全国調査の実施を決めています。メタボリックシンドロームは、内臓周辺に脂肪が蓄積するタイプの肥満(内臓脂肪型肥満)に起因します。診断基準では内臓脂肪型肥満に加え、高血糖、高血圧、高脂血症のうち、いずれか2つに該当する場合、メタボリックシンドロームになります。皮下脂肪に比べて内臓脂肪が問題になるのは、内臓周辺に脂肪がたまると、その脂肪細胞からTNF-α、PAI-1といった、高血糖や高血圧、高脂血症を起こしやすくする生理活性物質(アディポサイトカイン)が分泌異常となり、動脈硬化が急速に進むからです。
これまでに確認されているβ-コングリシニンの生理効果
大豆たん白に血清脂質を改善する効果があることは、以前からよく知られていました。しかし、後で詳しく述べますが、大豆たん白はグリシニン(11S)、β-コングリシニン(7S)、脂質会合たん白質(LP)の、3種類のたん白質画分から構成されており、その種類による効果の違いは、これまで明らかにされていませんでした。
そこで我々は、大豆たん白の主成分のひとつであるβ-コングリシニンに着目し、10年ほど前から研究を重ねてきました。【図1】、【図2】はβ-コングリシニンの中性脂肪(トリグリセリド)に対する効果を調べたものです。実験では遺伝的に肥満や糖尿病を起こしやすいマウスを3群にわけ、同量の脂質にそれぞれβ-コングリシニン、グリシニン、カゼイン(牛乳などに含まれるたん白質)を添加した飼料を与えました。
【図1】からはカゼイン摂取群と比べて、β-コングリシニン摂取群で血中の中性脂肪の濃度が有意に低く、糞に含まれる中性脂肪の量が多いことがわかります。また【図2】の結果は、脂肪がエネルギーとして使われたときにできる「ケトン体」に注目したものですが、これもβ-コングリシニン摂取群で高濃度になっています。このほか、脂肪を代謝する際に働く酵素を調べた実験でも、β-コングリシニン摂取群で高くなっていることがわかりました。
【図3】はこれらの実験から推察されることをまとめたものです。β-コングリシニンには(1)小腸での中性脂肪の吸収を抑え、糞中への排泄量を増やす、(2)肝臓で中性脂肪がエネルギーになるのを促す、(3)肝臓で中性脂肪が再合成されるのを抑制する、などの働きがあり、結果として血中の中性脂肪量を減少させ、脂肪が蓄積するのを抑える効果があると考えられます。


β-コングリシニンのヒトに対する効果
次にβ-コングリシニンの、ヒトに対する効果を調べた実験についてご紹介します。実験方法は通常の食事に、1日5gのβ-コングリシニンを摂ってもらい、血中の中性脂肪とCTスキャンで内臓脂肪量を調べるというものです。
その結果、同量のカゼインを摂取したコントロール群(図中では「プラセボ群」)に対し、β-コングリシニンを摂取した群は、【図4】のように実験開始後4週間で、血中の中性脂肪が有意に減少しました。これについては血中の中性脂肪値がもともと高い人(150mg/dl以上)と適正範囲(150mg/dl未満)の人で比較すると、β-コングリシニンは中性脂肪値が高い人のみに作用することも確認されています。中性脂肪も体にとっては欠かせない成分なので、適正範囲内の人には特に影響をもたらさないということは食品成分として重要な要件です。
次に内臓脂肪に対する効果を見たところ、【図5】のように実験開始20週以降でβ-コングリシニン摂取群に有意な減少が確認できました。この場合も内臓脂肪が多い人ほど減少率が高いことがわかっています。

従来の大豆・大豆食品に、β-コングリシニンをプラスする
今回の実験から、1日5gの大豆β-コングリシニンは、血中の中性脂肪値を改善し、内臓脂肪を減らすことがわかりました。これらの作用を持つ成分はほかにもありますが、β-コングリシニンの場合は先に述べたように、「脂質の吸収を阻害する」「脂質の燃焼を促す」「脂質の合成を抑制する」といった、複数の作用機序で効いていることが推察されます。高脂血症や肥満の要因は人によって異なるので、β-コングリシニンはより多くの人に効果が出やすい機能性成分と言えそうです。
またβ-コングリシニンは大豆たん白の主成分のひとつですが、その内訳は図7のようになっています。実はこれまで、大豆たん白はグリシニンとβ-コングリシニンで構成されると考えられてきましたが、膜たん白に起因する「脂質会合たん白質(LP)」が、約4割含まれることを、このたび我々が新たに確認しました。この発見によって、より純度の高い粉末状大豆β-コングリシニンの製造が可能になりました。
【図7】からわかるように、β-コングリシニンの含有量は大豆たん白の20%ほどで、大豆全体ではわずか5%にしかなりません。ヒトで効果の確認されている1日5gを、通常の食品で摂ろうとすると、豆乳なら1リットル、豆腐なら2丁半を食べる必要があります。これだけの量を毎日摂るのは現実問題として難しく、また同時に他の栄養素を摂りすぎる心配もあります。この点を考慮すると、大豆・大豆食品に加えて、β-コングリシニンを強化した機能性食品を、適宜取り入れることがよいと思われます(【図6】)

研究報告を受けて β-コングリシニン効果に期待
国際的に肥満者の増加は大きな問題になっています。2000年から国が取り組んでいる「健康日本21」でも、2010年までに肥満者の割合を、20代〜60代男性で15%以下に、40代〜60代女性で20%以下に減らすという目標値を掲げていますが、現在までのところその目標値には遠く、男性ではかえって肥満の割合が増加しています。肥満からメタボリックシンドロームになると、将来の生活習慣病のリスクは著しく高くなります。高脂血症はメタボリックシンドロームの一角をなす非常に重要な所見で、できれば薬より食事や運動で改善した方がいいのですが、これまでの生活習慣を変えるのはなかなか難しい、というのが現状のようです。通常の食事に1日5gのβ-コングリシニンを加えることにより、内臓脂肪、及び血中の中性脂肪が減少したという今回の報告は、非常に意義のあるものと思われ、今後の実証データの積み上げが期待されます。
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廣塚元彦略歴 不二製油(株)・フードサイエンス研究所所長。1978年に不二製油(株)に入社。以来、大豆たん白の基礎研究に従事。現在の研究テーマは、(1)大豆たん白の工業的分画技術の確立、(2)大豆たん白分画物の生理活性、特にβ-コングリシニンの血清脂質低減効果の研究、(3)大豆ペプチドの製法とその生理的意義の研究など。 |
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渡邊昌先生略歴 国立健康・栄養研究所理事長。米国国立がん研究所病理部、国立がんセンター研究所病理部を経て、1985年より同疫学部長として、がんの疫学研究、臨床疫学、分子疫学の新分野を開く。1996年より東京農業大学栄養科学科教授。食品中の非栄養素成分の健康効果、特にイソフラボンのがん予防効果や内分泌攪乱物質などの研究に取り組む。2005年より現職。 |
「大豆たん白健康情報センター」について 2001年5月、大豆たん白がもつ健康価値を広く知っていただくことを目的として、大豆たん白の販売では日本のトップ企業であるフジプロテインテクノロジー株式会社が「大豆たん白健康情報センター」を設立させました。設立にあたっては、不二製油株式会社、デュポン株式会社ソレイ事業部、財団法人不二たん白質研究振興財団の協力を得ています。「大豆たん白健康情報センター」では大豆たん白と心血管・脳血管疾患、骨粗しょう症、更年期障害、がんなどの疾患との関係、大豆たん白に関する国内外の最新の研究成果や大豆たん白を利用して作られた加工食品等の情報を発信しています。 |





