大豆たん白および大豆の研究トレンド
〜積み重ねられた研究と、期待される新たな健康価値〜
大豆たん白健康情報センターでは2008年11月、米国ロマリンダ大学のマーク・メッシーナ先生を招き、同先生がオーガナイザーを務められた『第8回国際大豆シンポジウム』で特に注目される報告を含め、最近の大豆たん白および大豆研究の傾向について解説していただきました。
また米国で大豆関連食品の開発、製造、販売を行うソレイ社・栄養科学特別研究員のイレーン・クルール博士から、大豆のコレステロール低減効果に関する研究について、最近の研究内容を含めたメタ分析を紹介していただきました。
大豆:現代に健康価値をもたらす東洋の伝統食品 〈マーク・メッシーナ博士〉
米国における大豆研究の流れ。1990年代以降、注目の素材に。
大豆が食品として米国に紹介されたのは、1970年代初めのことです。しかしながら、当時、大豆を食べていたのは、ベジタリアンや健康志向が特に強い一部の人々に限られていました。状況が劇的に変わったのは、1990年代に入ってからです。1996年から2005年までに、米国の大豆食品市場は売上高で約4倍に拡大し、米国人は日常的にスーパーマーケットで大豆食品を買うようになりました(図1)。
なぜ、大豆はそれほど急速に米国で広まったのでしょう。それは1990年代以降、大豆に関する科学的な研究がさかんに行われ、大豆の持つ健康価値に人々が注目しはじめたからです。
その大豆研究のこれまでの流れについて、今日は3つの出来事を取り上げたいと思います。一つは、1990年に米国の国立がん研究所が、大豆のがん発症リスク低減効果を検証するプログラムをスタートさせたことです。米国政府もこれを支援したため、この分野での研究がかなり進みました。次に、1995年に非常に権威のある医学専門誌である「TheNew England Journal of Medicine」に、大豆には血中のコレステロールを下げる効果があることが発表されました。この報告は米国で大変な驚きをもって受け止められ、これにより人々は大豆が優れた健康食品であることを知ったのです。 そして3つ目に1999年、米国FDA(食品医薬品局)は「大豆たん白を摂取すると心臓病のリスクが低減できる」という主旨の加工食品、健康食品などへの効能表示を認めました。
また、研究対象として大豆が注目される大きな理由の一つは、大豆がイソフラボンを豊富に含む唯一の食品だからです。実際それが、20年前に私が大豆と健康に関する研究を始めた理由です。イソフラボンは「植物性エストロゲン」と言われることからも分かるように、女性ホルモンであるエストロゲンと共通した性質を持っています。しかし一方で、まったく違う性質もあります。まさにそこが、この成分の興味深い点なのです。
大豆食品1食分には、およそ25mgのイソフラボンが含まれています。日本人の場合、高齢の人は大豆食品の摂取量が多く、1日に30〜50mgのイソフラボンを摂っているといわれています。しかし大豆離れが進む若年層では、残念ながらイソフラボンもそれほど摂れていないというのが現状でしょう。

最新研究の紹介
「第8回国際大豆シンポジウム※」のハイライト
※8th International Symposium on the Role of Soy in Health Promotion and Chronic Disease Prevention and Treatment (November 9-12, 2008)
「第8回国際大豆シンポジウム」での発表から、メッシーナ先生が注目する研究のいくつかをご紹介いただきました。
骨粗鬆症関連
骨粗鬆症は近年、日本でも増加している疾患の一つです。1987〜1997年の間に、股関節骨折の発生率は約1.7倍に増加。50〜79歳の女性の35%が、脊椎の骨粗鬆症に罹患しているともいわれています。
●大豆イソフラボンは、骨密度の低下を防ぐだけでなく、骨密度の改善にも効果
閉経後のイタリア人女性に、大豆イソフラボンを3年間摂取してもらったところ、脊椎と股関節の骨密度が9%上昇。プラセボ群では12%低下していた。
※Safety and Efficacy of Genistein Aglycone on Bone Metabolism and Some Predictors of Cardiovascular Risk:A 3-Year follow-up Study.(Squadrito F, Univ Messina, Italy)
●大豆を多く摂取する女性は、股関節骨折のリスクが3分の1低下する
中年のシンガポールの華僑約63,000人を対象に、10年間の食事調査を行った。その結果、女性で大豆食品の摂取量が最も多い群は、骨折の発生リスクが約3分の1ほど低くなることが分かった。男性に対しては、大豆食品の効果は認められなかった。
肥満関連
アメリカのみならず、食事や生活スタイルの変化に伴い、日本でも肥満が問題になっています。
●大豆たん白は満腹感を得やすい
20人の若い男性に、朝食と昼食に大豆たん白入りの食事を摂ってもらい、夕食は好きなものを自由に食べてもらった。その結果、朝食、昼食に大豆たん白を含まない食事をしたときと比べて、大豆たん白入りの朝食、昼食を食べると、夕食での摂取カロリーが172kcal少ないことが分かった。
※Effect of Soy Food Products on Satiety, Food Intake and Subjective Sensations. (Dye L., Univ. Leeds, UK)
乳がん関連
これまでの研究で、日本や中国をはじめ、大豆を日常的に食べる国は、アメリカなどのそうでない国と比べて、乳がんの発症率が低いことが分かっています。しかし一方で、食生活の欧米化などを背景に、近年、日本でも乳がんの増加が懸念されるようになってきました(図3)。

大豆の乳がん予防効果については、すでに優れた研究が報告されています。それによると、若いうちから大豆食品を食べておくことで、乳がんを発症する率を25〜50%下げることができるとされています。
●大豆食品は乳がん患者の生存率を高める
上海で乳がん患者約5,000人を対象に、食事調査を実施。およそ26カ月の調査期間の間に死亡が290例、再発が410例あったが、大豆を最も多く食べている群は、死亡率では24%、再発率と死亡率を合わせると、33%低かった。
※Soy Food Intake and Breast Cancer Survival. (shu XO, Vanderbilt Univ, USA)
コレステロール関連
血液中のコレステロールが増えると、心臓病のリスクが高まることはよく知られています。残念ながら、近年日本人の血中コレステロール値は、男女とも上昇してきており、今ではアメリカ人とほぼ同程度になっています。
●大豆たん白は血中コレステロール値を低下させる
大豆たん白に関するこれまでの研究の中から、FDAの基準に基づいて選んだ45の研究を分析(メタ分析)した。その結果、大豆たん白は血中のコレステロール値を約10mg/dl低下させることが確認された。
※Meta-Analysis Confirms Soy Protein's Cholesterol Lowering Efficary. (Samuel P, Washington Univ.,USA)
※この研究についての詳細は、ウラ表紙「メタ分析による確認 大豆たん白によるコレステロール低減の効果」を参照。
今後、期待される大豆の健康効果。血圧、認知機能の改善効果も検証中。
新たに注目が集まっている健康価値は、高血圧に対する効果です。あまり知られていませんが、心臓病のリスク要因として、コレステロール値が高いことよりも血圧が高いことの方が、影響が大きいといわれています。大豆のような身近な食品で、血圧を下げる効果が期待できるというのは、極めて優れた利点といえるでしょう。
大豆の血圧低下作用に関する興味深い報告があります。
閉経後の女性60名を対象に行った研究では、大豆を含まない健康的な食事に炒り大豆を加えて、8週間食べてもらったところ、もともと血圧が高い女性の場合、収縮期血圧(最高血圧)および拡張期血圧(最低血圧)が、どちらも約10ポイント低下していました。
この他の研究で、3週間、豆乳を1日に2杯(合計500ml)飲むと、収縮期血圧が155.0mmHgから3週間後136.6mmHgと、低下したという報告もあります。これは有意な低下です。比較として、同量の牛乳を飲んだ群では、血圧の変化は特に認められませんでした。
これらの研究における大豆の血圧の低下効果は、降圧剤(血圧を低下させる薬)に相当する程と言えます。(図2)

このほか、まだ初期の段階ですが、脳の認知機能に関する研究も始まっています。現在までのところ9件の研究のうち5件で、認知機能に関するいくつかの測定において、大豆イソフラボンによる改善効果が報告されています。
以上のように、大豆にはたくさんのメリットがありますが、「摂取しても、ほかに悪影響を与えない」という長所もあります。今回の国際大豆シンポジウムでは、女性ホルモンであるエストロゲンや、男性ホルモンのテストステロン、および精子や精液に影響をもたらさないこと、また鉄や亜鉛などのミネラルバランスを崩す心配もないという研究結果が報告されています。
これらの科学的な研究成果をふまえ、私はみなさんに毎日、大豆を食べることをお勧めしています。特に女性は将来、乳がんの予防の意味も含めて、10代から大豆食品を意識して摂ってほしいと思います。
メタ分析による確認 大豆たん白によるコレステロール低減の効果
〈イレーン・クルール博士〉
大豆たん白のコレステロール低減効果に関しては、すでにさまざまな研究がありますが、私たちは、複数の研究結果を合わせて、一つの大規模な研究として解析する「メタ分析」という手法を用い、大豆のこの効果について再検討を行いました。
メタ分析では、質のよい研究を選ぶことがとても重要です。そのため私たちは、1977年から2008年までに発表されたヒトを用いた152の研究の中から、FDAの厳しい基準を満たす45の研究を厳選し対象としました。分析にあたっては、各研究の尺度を揃えたり、大規模な研究についてはその結果に対し加重を持たせて貢献度を大きくするなどの調整を行っています。
そしてその結果ですが、まず対象とした研究の大部分が大豆たん白には統計的に有意なコレステロール低減効果があることを示しており、全体で総コレステロールは9.54mg/dl、LDLコレステロールは7.12mg/dl下がっていました。
食品の形態は効果には特に影響がなく、コレステロールが高い人により顕著な効果が認められることが示されています。また、単に低脂肪、低コレステロールの食事を摂るより、大豆たん白を加えた上で同様の食事を摂る方が、コレステロール低減効果が高まります。このような大豆たん白のコレステロール低減効果は、同じくアメリカで健康食品の効能表示が認められているオートミール麦、オオバコ種子殻に含まれる水溶性食物繊維と同程度であることが示されています。なお、コレステロールに関しては、大豆たん白の方がイソフラボンより低減効果が高いことも、最後に付け加えておきます。
マーク・メッシーナ 博士・理学修士 メッシーナ博士は、栄養コンサルティング会社Nutrition Mattersの共同経営者、ロマリンダ大学非常勤准教授、SoyNutrition Instituteのエグゼクティブディレクターを務める。前職は米国国立癌研究所(National Cancer Institute、NCI)の編成局長で、NCI在職中に大豆の抗癌作用に関する研究計画に着手。NCI退職後、主に大豆食品や大豆イソフラボンの健康効果に関する研究に専念。大豆に関連して広く執筆活動も行っており、これまで医療従事者向けに50件以上の論文や書籍を発表している。また米国を始め38ヵ国で消費者や専門家向けに講演を500回以上行ってきた。このほか、栄養士、医療従事者向け季刊会報誌「The Soy Connection」(流通135,000部以上)の編集顧問委員会の委員長を務め、同誌で定期的にコラムを掲載している。また慢性疾患の予防や治療における大豆の役割に関して国際シンポジウムを8回企画主宰し、中国、インド、ブラジルで大豆関連の会議を開催した。 |
イレーン・クルール 博士 イレーン・クルール博士は、デュポン社とBunge Limited社の合弁企業であるソレイ社の栄養科学特別研究員である。クルール博士はソレイ社の分子栄養学グループのリーダーとして、食品の成分が体内で栄養および健康効果をもたらす分子メカニズムの解明に力を入れている。 ソレイ社に入社する以前は、ワシントン大学の非常勤研究准教授であり、代謝におけるリポタンパク質と心臓血管疾患の基礎研究に12年間従事した後、産業界に入り、G.D. SearlePharmaceutical社、Monsanto社の栄養部門、セントルイスのPfizer社で様々なプロジェクトを統率した。 クルール博士は生化学者としてマギル大学で博士号を取得、リポタンパク代謝と心臓血管疾患、遺伝的変異・薬・栄養の影響などについて、同分野専門家の査読を経た学術論文40件、招待論文や章を14件執筆している。また、米国で出願された3件および世界的な3件の特許の発明者・共同発明者でもある。米国心臓協会会員。 |



