大豆たん白のがんリスク低減効果
第5回メディアワークショップ開催
大豆たん白健康情報センターでは、6月1日に第5回メディアワークショップを開催しました。今回は、米国ソレイ社が食品医薬品局(FDA)に大豆たん白のがんリスク低減効果の健康表示(ヘルスクレーム)を申請、それを受理したFDAが審査に入ったことを受け、同社栄養科学部がん研究ディレクターリン・ヤン博士が「大豆たん白の特定がんリスク低減効果」と題し、申請の裏付けとなった研究データについて講演を行いました。さらに元国立がんセンター研究所疫学部長、東京農業大学栄養科学科教授の渡邊昌教授が日本の現状を踏まえて講演についてコメントしました。
日本人の特定がん死亡率は年々上昇
がんを日米比較した場合、罹患率では女性のトップは日米ともに乳がん、しかしながら、男性では、日本が胃がん、米国では前立腺がんがトップです。また、死亡率をみると、乳がんでは米国が日本の2.7倍、前立腺がんでは3.2倍です(2002年の米国がん学会のデータ)。このように日米の違いは長年指摘されてきましたが、今回対象となった乳がん、前立腺がん、消化器系がん(結腸/直腸がん)の死亡率は、日本でもここ20年で上昇(グラフ1)。原因は食生活の欧米化によるものと言われています。一方、米国では、食生活と各種疾患の関連が臨床的に検証されつつあり、心疾患に続き、米国がん学会が「米国におけるがんによる死亡の約35%は食生活の改善によって回避可能である」と指摘しています。今回のソレイ社の申請も米国における国をあげての食生活の見直しの動きが背景にあります。
グラフ1 日本におけるがん死亡数の推移(人口10万対)
乳がんではリスク20%減
今回の申請にあたり、ソレイ社は、大豆食品摂取とがん罹患についての学術的に信頼性の高い疫学調査58件の論文を選び、これらの研究に報告されているがんリスク低減効果についての数値(オッズ比、相対危険度)をメタ分析と呼ばれる統計方法により、ひとつのリスク予測値にまとめました。この数値が1より大きければその食品摂取ががんのリスクを高め、1以下であればリスクを低減することになります。その結果、22件の研究データの分析により乳がんでは大豆たん白を摂取することによるリスク予測値は、0.78となりました。つまり、がんリスクのおよそ20%減少につながることがわかりました。また、閉経後の女性を対象とした研究では、リスク値は0.64、つまりおよそ35%リスクの低減につながることがわかりました。さらに思春期の女性を対象とした調査では、思春期に月に1食以下の大豆を摂取していた人に比べ、週4食以上大豆を摂取していた人はその後の人生で約50%リスクが減ることにつながるという結果が得られました(グラフ2)。
グラフ2 思春期における大豆食品の摂取と乳がんリスク
前立腺がんは35%減
前立腺がんに関しても、10件の研究データを分析したところリスク予測値は0.66、大豆摂取がおよそ35%のリスク低減につながることがわかりました。また、一般に前立腺がんのリスクを下げると言われているシリアルやナッツ・脂肪種子と比べても、大豆は、シリアルの16倍、ナッツ・脂肪種子の4倍、リスクを低減させるということを示す42カ国を対象とした多国間の比較分析も提出されました(グラフ3)。
グラフ3 大豆摂取と前立腺がんの死亡率
消化器系がんも30%減(食道・胃・結腸・直腸)
消化器系がんに対しても、30件の研究データを分析した結果、リスク予測値は0.70、およそ30%のリスク減少につながることがわかりました。
また、これらのがんに関して、動物実験でも、たん白源をカゼイン(牛乳のたん白)から大豆たん白に換えることで腫瘍の誘発形成が抑制されることを確認した論文が提出され、これらのリスク低減効果が大豆の成分のうち大豆たん白によるものであることが明らかになっています。
今回のメタ分析の材料となった研究は大豆食品を対象としたものであり、大豆たん白に換算すると、研究の対象となった被験者の平均摂取量は1日当たり4.8gと算出されます。しかし、各研究の手法が疫学調査のため、大豆たん白を摂取することががんのリスクを低減させることは明らかになりましたが、どのくらいの大豆たん白を摂取すれば効果が得られるか現段階では明確になっていません。そこで食品に表示するための最低必要量としては、1日あたりの推奨栄養摂取量50gの10%、すなわち5g(1製品あたり)という申請内容になっています。
今後の展開予想
これらの結果をもとに、ソレイ社よりFDAに対して、大豆たん白の摂取が乳がん、前立腺がん、消化器系がんのリスクを低減させるという大豆たん白食品への健康表示(ヘルスクレーム)を食品に表示する申請が2004年3月1日に提出され、4月16日受理されました。承認の可否が決定するのは11月末ごろと予想されます。
食生活の変化に追いつかない日本人の意識
渡邊教授は、医療者と患者さんとのがんに関する認識の違いを指しました。
患者さんはがん治療についての知識が豊富になっていますが、がんの予防という観点では、まだまだ認識が薄いのが現状です。がん罹患率からもわかるように、日本人が罹るがんは、食生活の欧風化により、明らかに以前とは種類が異なってきています。女性では、10年前までは胃がんがトップでしたが、今では乳がんになり、男性では、前立腺がんが増加してきています。一方、米国をみると、ここ20年、がんの罹患率は減ってきています。これは、米国での医療機関、政府、国民全体でのがん予防の取組みによるものと思われます。米国では、「5 a day 」(一日に5セービング以上の野菜・果物摂取を勧めるもの)やFDAが認める健康表示(ヘルスクレーム)に見られるような国民運動が盛んになっています。日本でも、国民全体を巻き込むような動きが必要になってきているのではないかと思われます。
今回の大豆たん白という食品単体での申請は、承認されれば、米国ひいては世界でのがん予防にとって転換期となることでしょう。
アメリカ・オーストラリアの大豆たん白食品例
質疑応答
講演とコメントの後、質疑応答がありました。以下は質問と回答の要旨です。
【大豆たん白の体内吸収率】
大豆たん白を使用した消化吸収率の実験は人でも動物でも行われています。年齢、生理的条件などにもよりますが、95〜97%の消化吸収率だと考えられます。
【日本人の胃がん発生率】
50〜60年前は米国でも胃がんがトップでしたが、冷蔵庫の普及に伴い、塩漬け食品の摂取が減り胃がん発生率を低減させたものと思われています。一方、日本人の場合は、依然として食塩摂取量が多く、ヘリコバクターの感染率が高いため、それによる慢性萎縮性胃炎がおきて発がんにつながりやすいことが原因と思われています。
【乳がん患者の再発防止】
再発に対する研究はまだ行われていません。しかしながら、理論から言えば原発がんを予防するような生活習慣は、がんの再発も抑えられるであろうと考えられています。
【がんリスク低減のメカニズム】
大豆たん白には様々な成分が含まれています。成分の一つであるβコングリシニンは中性脂肪の低減効果があることはわかっていますが、脂質代謝や種々の酵素に対する作用、脂肪分の排泄などがんのリスクと関連すると思われる効果はどうやらβコングリシニン以外の成分も働いていると思われます。イソフラボンもかなり寄与しているとも推測されます。βコングリシニンにしてもイソフラボンにしても今の段階では、まだ研究途中であり、どの成分ががんリスク低減に直接作用しているのか、結論は出ていません。しかし、カゼインなどでは効果が見られないので、大豆たん白に含まれる成分のいずれかが機能を持つ成分であると思われます。
講師略歴(敬称略)
| リン・ヤン 1986年テキサス工科大学栄養学部修士課程修了 1990年テキサス工科大学栄養学部博士号取得 1990年ラトガース大学生物科学部ポストドクトラルアソシエイツ 1992年クレイトン医科大学生物医学部シニア研究員 1994年クレイトン医科大学生物医学部助教授 1999年デュポンプロテインテクノロジー 社栄養科学部シニア研究員 2002年ソレイ社栄養科学部がん研究ディレクター |
渡邊 昌 1965年慶應義塾大学医学部卒業 1970年同大学院博士課程(病理学専攻)修了 1973年慶應義塾大学医学部専任講師 1975年米国国立がん研究所病理部研究員 1977年国立がんセンター研究所病理部研究員 1985年同疫学部長に就任、喫煙と健康WHO研究協力センター長を兼任 1996年東京農業大学応用生物科学部栄養科学科教授に就任 |
つくばレポート
「最先端の大豆たん白食品の製造現場をのぞく」
豆腐ハンバーグはすっかりおなじみになり、ハンバーガーチェーンのメニューにも登場しました。コンビニのお弁当にもプチがんもなどの大豆たん白食品が増えています。実はこれらの多くは大豆たん白を主原料にすることで普及が進んだのです。日本でも屈指の大豆たん白食品工場である、不二製油Mたん白食品つくば工場をたずね、その生産現場を見てきました。
拡大する市場のニーズに応えて

つくばハイテクパーク内に立地するつくば工場
不二製油はもともと関西の神戸工場で大豆たん白食品を作っていましたが、東日本での売り上げ増加に伴い、2001年8月に茨城県岩井市にたん白食品つくば工場を建設しました。同社のつくば研究開発センターも近く、東日本の消費者の好みにもあった商品開発から製造、製品の供給がスムーズにできるようになり、また、新しい設備を用いて最近の好みにあった、よりソフトな食感の製品も可能になりました。生産能力は年間6,000トン、自社ブランドの「SOYAFARM」だけでなく、流通や外食メーカーのPB製品も製造されています。
工場は約18,000平方メートルの敷地に立つ白い2階建て。HACCPに対応した衛生的設備で、ISO-9000に準拠した生産管理が行われています。工場内には見学用通路があり、案内してくれた浜上副工場長によると、地元の小学生や取引先、また栄養士の方がよく見学にこられるとのことです。
4ラインから製品が次々と
つくば工場には(1)がんもライン(2)ひろうすライン(3)ハンバーグライン(4)油揚げラインの4本の生産ラインがあり、ぎんなんがんも、湯葉ひろうす、豆腐ステーキ、豆腐ハンバーグ、豆腐ナゲット、油あげなど約60アイテムを製造しています。がんもどきの製造ラインでは、大豆たん白、にんじん、ごま、ひじきなどと調味料、油が計量、ブレンドされます。そして、丸く成型されフライヤーで揚げた後、トンネルフリーザーで急速冷却し、工場の2階につながるスパイラルフリーザーで急速冷凍されます。工場2階の包装工程では、X線検査、金属検査の後、包装、箱詰め、重量検査を経て、冷凍倉庫で出荷を待つことになります。
できたてを試食
見学の最後に出来立ての大豆たん白食品を試食しました。定番の豆腐ハンバーグは外側がちょっとカリカリして香ばしく、中はところどころに豆腐らしい滑らかな舌触りが残っています。ぎんなんがんもはさくっと揚がった皮とぎんなんの歯ざわりが絶妙。そして湯葉ひろうす。クリーム色の外側は湯葉の弾力を残し、中は山芋を使ったしんじょのようなやわらかさです。これらすべてに大豆たん白の栄養がつまっているのです。
健康機能は美味しさがあってこそ

がんもどき調理例
たん白食品つくば工場の川崎工場長は、長年素材としての大豆たん白の開発に関わってきた方。大豆たん白もここ10年で大きく品質が向上したと感慨深げ。開発において最も苦労された点は大豆臭をとりのぞくこと。「食品である以上おいしさは不可欠。これからも風味改善の努力を続けていきたい」と、話されました。



