大豆たん白健康情報センター

大豆たん白とは?

前立腺がんの予防に大豆の効果が期待

6カ月の大豆たん白摂取で、前立腺がんへの進行を抑制
大豆たん白健康情報センター 第8回メディア・ワークショップ開催

 大豆たん白健康情報センターでは2007年10月3日、メディア・ワークショップを開催いたしました。第14回目となる今回は、米国ミネソタ大学食品科学・栄養学部教授のミンディ・S・カーザー先生より、「大豆たん白の前立腺がんリスク低減に関する最新研究」についての講演が行われました。またこれを受けて、筑波大学附属病院副院長の赤座英之先生から解説、コメントをいただきました。

アジアで急増する前立腺がんと大豆摂取

 従来、日本をはじめアジアの国々では、前立腺がんの罹患率、死亡率は欧米に比べてかなり低いとされてきました。しかしこの状況も、徐々に変わりつつあります。例えば日本における前立腺がんは、2002年時点で死亡率では米国の約3分の1、罹患率では約10分の1ですが、増加率でみると表1、表2に示したように、罹患率、死亡率ともに急速な勢いで増えています。同様の傾向は、他のアジア諸国でも見られます。
 この背景にはライフスタイルの変化、とりわけ食生活の欧米化が、大きく影響していると言われています。中でも注目されているのが大豆の摂取です。大豆にはイソフラボンという、女性ホルモンのエストロゲンに非常に良く似た成分が含まれています。男性の体内にもエストロゲンは存在しますが、イソフラボンはこの働きを助け、前立腺がんに対して抑制的に働く可能性があることが、これまでの研究で指摘されています。つまりアジアにおける前立腺がんの増加は、これまで伝統的に食べてきた大豆を、あまり食べなくなったことと関係があるのではないか、と考えられているのです。

表1
表2

大豆の前立腺がん予防効果に関するこれまでの研究

 次に、前立腺がんと大豆摂取に関するこれまでの研究を、簡単にご紹介します。
 まず疫学研究については、世界各地でさかんに行われていますが、単一の研究で疾患と食物摂取の関わりを見出すのは非常に難しく、各研究の結果は必ずしも一致したものではありません。
 近年、このような個別の研究の限界を越える手法として、よく用いられているのが、各研究データを蓄積することで、統計学的に意味のある結果を導き出す、メタ解析です。2005年に発表された、大豆摂取と前立腺がんに関するメタ解析では、「大豆を摂取することによって、前立腺がんのリスクが約30%低減する」ことが報告されています。
 ヒトの介入試験では、PSA(前立腺特異抗原)や血中の性ホルモンといった、前立腺がんのリスクを推測できる、バイオマーカーを用いた研究が数多く行われています。
 PSAを調べた研究では、大豆イソフラボンによって、血液中のPSAの増加速度が抑えられた、という報告がいくつか出ています。PSAは前立腺から分泌されるタンパク質で、正常なときも血中にわずかながら存在しますが、前立腺がんになると、PSAの血中濃度が上がることが知られています。つまり大豆イソフラボンの摂取で、PSA値の上昇スピードが抑制されたということは、イソフラボンに前立腺がんに対する予防効果があることを示しています。
 大豆が血中の性ホルモンに及ぼす影響を調べた研究については、この度、我々の研究グループがメタ解析を試みました。その結果、「大豆は血中の性ホルモンに、ほとんど影響を与えない」という結論に至りました。前立腺がんは性ホルモンとの関与が深いとされるがんで、我々は仮説として「大豆の摂取によって、男性ホルモンであるアンドロゲンが減少し、女性ホルモンのエストロゲンが上昇して、全体として前立腺がん予防の方向に働くのではないか」と考えていました。しかしメタ解析の結果は、この予想に反するものでした。

大豆が前立腺がんの発症を抑制。エストロゲンの代謝改善も

 今回、我々の研究グループは、前立腺がんのリスクが高い男性(平均年齢68歳)を対象に、大豆たん白の摂取が、前立腺がんの各種バイオマーカーに及ぼす影響を評価しました。
 被験者はPSAの値が高く、精密検査として、前立腺の組織を採取する生検を受けた結果、「前立腺がんではないが、前がん状態、あるいはまだ治療の必要がない早期の前立腺がん」と判定された人々です。この人たちを、イソフラボン107mgを含む「大豆たん白摂取群」(20名)と、イソフラボンを全く含まない「乳たん白摂取群」(18名)の2群に分け、それぞれ飲料の形態で、1日40gを2回に分けて摂取してもらいました。
 図1はその試験スケジュールです。試験期間は6カ月で、試験開始前と試験終了時に生検を行って前立腺の組織を採取し、さらに試験開始時、3カ月目、試験終了時の計3回に渡って、24時間採尿と空腹時採血を実施しました。

図1
図2,図3

 その結果、血中のホルモン及びPSA値、また前立腺組織中のがんのバイオマーカーについては、特に変化は認められませんでした。しかし前立腺組織のアンドロゲン受容体を調べたところ、「大豆たん白摂取群」において、受容体の発現が統計的有意差を持って抑制されていました(図2)。このことは前立腺がんの発症リスクが下がったことを意味します。
 また、大豆たん白は血中のホルモンには影響しませんでしたが、尿中のエストロゲン(エストラジオール、エストロン)については、「大豆たん白摂取群」で有意に増えていることが分かりました(図3)。さらに我々は、エストロゲンの主要な代謝物にも注目しました。エストロゲンは大きく「16αヒドロキシエストロゲン」と、「2ヒドロキシエストロゲン」の2グループに代謝されますが、16αヒドロキシエストロゲンに比べて、2ヒドロキシエストロゲンへの代謝が多いと、がんのリスクが下がることがこれまでに報告されています。今回の試験では、「大豆たん白摂取群」で2ヒドロキシエストロゲンへの代謝亢進が認められ、2:16αヒドロキシエストロゲンの割合が増加しました(図4)。腎臓の機能が健常であれば、24時間採尿による尿中のホルモンは、全身のホルモンの状態を最もよく反映すると言われています。そのため、尿中のエストロゲンに関する以上のような変化は、前立腺がんリスクの低減を期待させるものと考えられます。
 最後に、今回の研究では我々が全く予想もしなかった結果が得られました。くり返しますが、この試験の被験者は前立腺がんのリスクが非常に高い人々です。通常このようなハイリスクの人たちは、6カ月程度を経過すると、そのうちの何人かはがんを発症します。しかし実際には、「大豆たん白摂取群」で前立腺がんに進行した人は16人中1人で、「乳たん白摂取群」の16人中6人と比較して、有意に少なかったのです。これは6カ月の大豆たん白摂取が、前立腺がんの進行を抑制した結果と推察されます(図5)。
 しかしながら、今回の我々の研究は被験者の数が少なく、この結果を全人口に当てはめることには、慎重にならざるをえません。今後、より大規模な臨床試験を行うことで、さらに検証を重ねていく必要があると思われます。

図4
図5

大豆離れで、エコールを作れない若者が増えている

 大豆の前立腺がん予防効果に関して、昨今、研究者の多くが関心を寄せているのは、イソフラボンの中でも、特に活性が高いとされるエコールです。大豆のイソフラボンには、ダイゼイン、グリシテイン、ゲニステインなどがありますが、このうちのダイゼインが、特定の腸内細菌によって代謝されてできる物質がエコールです。
 しかし、ダイゼインからエコールを作る腸内細菌は、だれもが持っているわけではありません。体内でエコールが作れる人と、そうでない人では、同じように大豆を食べても、前立腺がんの予防効果に差が出ると考えられています。
 エコール産生者の割合を国別に見ると、日本、韓国では約半数がエコール産生者なのに対し、アメリカでは10%台に留まります。この理由として、アジアをはじめ、日常的に大豆を食べている地域では、エコール産生者が多いのではないかと言われています。
 しかし日本でも、年代別に見ると様子は違ってきます。若者の大豆離れを背景に、若年層のエコール産生者の割合が低くなっているのです。この傾向は韓国よりも日本で顕著です。現在、日本でも前立腺がんは増加傾向にありますが、エコールが前立腺がんの予防に深く関与しているという仮説が正しければ、今後さらに日本で前立腺がんが増えることが懸念されます。そのため大豆摂取の重要性を、若い世代を中心に訴えていく必要があると考えています。
 ダイゼインをエコールに変える腸内細菌については、現時点でかなり明らかになっています。近い将来、その細菌が同定されれば、エコールを作れない人に対して、プロバイオティクス等を利用してその腸内環境を改善し、エコールを作れるようにすることができるかもしれません。そうすればより効率的に、大豆を前立腺がんの予防に生かすことが可能になるでしょう。

日本でも大規模介入試験の可能性を探るためのパイロット試験を実施中

 カーザー先生が行った研究については、被験者の数が少なく、試験期間も6カ月と短期であったにも関わらず、前立腺がんに進行した人が「大豆たん白摂取群」で有意に少なかったことや、その他いくつかのバイオマーカーで、前立腺がんのリスクの低減、及びその傾向が示されたことに非常に驚いています。
 現在、我々も前立腺がんのリスクが高い人を対象に、大豆イソフラボンの前立腺がん予防効果を調べています。試験期間は1年で、被験者は200名を予定しています。このほかカーザー先生の研究と大きく異なるのは、あらかじめ被験者をエコール産生者と非産生者に分けた点で、これによりエコールの効果も同時に検証していきます。
 アメリカで行ったカーザー先生の研究の被験者は、おそらく大部分がエコール非産生者であったと推測されますが、それでも大豆の摂取によって、ある程度の効果が確認できたということに、大いに力を得ました。エコール産生者を特定した今回の我々の研究では、さらに明らかな効果が出るのではないかと期待しています。

ミンディ・S・カーザー先生略歴

 米国ミネソタ大学食品科学・栄養学部教授、大学院栄養学研究所所長。1989年、ミネソタ大学就任。以来、基礎栄養学、人体のたんぱく質およびエネルギー利用、栄養および内分泌学の各課程で教鞭を取る一方、食生活とがん予防の分野で研究を進める。研究は、大豆摂取の生物学的な影響に関するものが多い。
1984年、カリフォルニア大学バークレー校にて博士号(栄養学)を取得。その後NATOポストドクトラル・フェローシップを得て、イタリア国立栄養学研究所(ローマ)、オーデンセ大学(デンマーク)で研究を行う。さらにカリフォルニア大学サンフランシスコ校から生殖内分泌学専攻ポストドクトラル・フェローシップを授与。これまで、フィンランドのヘルシンキ大学とWHOの国際がん研究機関(フランス、リヨン)で客員研究員を務めてきた。

赤座 英之先生

筑波大学附属病院副院長、筑波大学大学院人間総合科学研究科機能制御医学専攻
腎泌尿器科学・男性機能学分野・教授。
1973年東京大学医学部医学科卒業。都立墨東病院、三井記念病院、都立豊島病院、米国テネシー大学客員助教授、東京大学医学部泌尿器科・医局長などを経て、1990年3月、筑波大学臨床医学系泌尿器科・助教授に就任。1997年1月、同教授就任の後、2000年3月から筑波大学附属病院副院長に就任。泌尿器系悪性腫瘍の基礎的・臨床的研究が研究テーマ。